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寝る前に読む話

 ある空が青い昼下がりのことだった。俺の相棒が空よりも真っ青な顔で現れた。

「おい、知っているか。この世界はベッドシーツに滅ぼされるんだ」
「気でも違ったのか? いきなり何を言い出すんだ」

 相棒は今にも泣きだしそうな顔をしていた。

「いいや俺にはわかるんだ、ベッドシーツは人間に悪意を持っている」
「ベッドに善も悪もあるもんか」
「それがあるんだよ。俺の話を聞いてくれ」

 俺は眉をひそめたが、それ以上何もしなかった。

「お前さんはベッドシーツがひとりでに歪むことに気が付いていたか?」
「確かに歪むことは歪むが、それは俺たちが寝返りを打つからでひとりで歪んでるわけじゃない」
「普通はそう思い込むんだ、でも俺は気が付いてしまったんだ」
「誰かが勝手にベッドシーツをずらしているって言いたいのか?」
「いいや、ベッドシーツそのものが動いているんだ」

 奴の妄言に付き合うのも疲れてきた。

「じゃあなんでベッドシーツは勝手に動くんだ? そいつの目的は何だ?」
「それはわからないが、俺の想像だとあいつらは人間を嫌っている」
「何故そう思うんだ」
「俺たちが毎日のっかかって重いだろうからな」

 奴の顔は青を通り越して赤黒く興奮し始めた。

「そうさ! 奴らは俺たちのことを飲みこむに違いない! そのために少しずつ動いて様子を探っているんだ!」
「いい加減バカな話はやめろ。変なクスリでももらったのか?」
「違う! 俺は正気だ! その証拠に早口言葉も言えるぞ! 彼女は海岸で……」
「もういい、お前は疲れているんだ。帰って休め」
「休めるもんか! もうベッドは俺たち人類の敵なんだ!」
「知るか! 勝手にしろ!」

 俺は奴を放っておくことにした。もう二度と顔を見ることもないだろう。

 家に帰ってから、俺は長年の相棒を失った悲しみに打ちひしがれていた。
「ふざけるな、ベッドシーツが俺たちを取って食うってか? 馬鹿馬鹿しい」
 そうつぶやいてはみるが、いざ気にし始めるとシーツの歪みが気になって仕方がない。
「これは自然と動いているだけだ、シーツが意志を持って動く? 有り得ない」
 確認するように声に出して、小さく笑った。
 声を出さないと、本当にシーツが勝手に動いているように感じてしまうのだ。
 結局その夜、ベッドに体を預けることができなかった。

 しばらくして、奴が消えてしまったという話を聞いた。
 確かに寝室にいたはずなのに、朝になったら煙のようにいなくなっていたと奴のおふくろさんが騒いでいたから間違いない。周りの奴らは不思議がっていたが、俺だけは奴がどこに行ったか何となくわかるような気がした。
 人間死ぬときは大抵ベッドの上だ。たくさんの死人を乗せていれば、それなりの良くない気がベッドに染み込んでいてもおかしくない。そして生まれた後もすぐベッドの上にいる。人間は生まれてから死ぬまでずっとベッドに頼っているのだ。ベッドなしで生きられる人間は、どこにもいない。故にベッドが反乱を起こしたら、人間は間違いなくベッドに滅ぼされる。

 そして最近、俺のベッドの様子もおかしいことに気が付いた。
 もし俺がいなくなったら、その時はベッドシーツではなく悪意ある毛布に飲まれたと思ってくれたらいい。
 
 もし奴や俺みたいになりたくなければ、ベッドシーツの歪みはこまめに直しておくことだな。
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明日で二年

あの日から明日で2年。

早かったのか、どうなのか。
よくわからないけど、状況がどんどん気にくわない方向に流れているのは変わらない。


最近津波の映像や被災地の様子を流す前に「ショッキングな映像が含まれます」って断るよね。
あれ、逆にイライラするなぁ。
実際に津波被害にあってトラウマ抱えている人に向けてのメッセージじゃなくて、
「悲惨な現実」を受け取る気のない「安全圏」にいる気でいる奴ら向けなんじゃないかって。

震災前からあった傾向かもしれないけど、ドキュメンタリーを
「重いから見たくない」って耳を塞ぐ意見をわざわざ公言する奴が増えた気がする。
それこそmixi日記で児童虐待ニュースが流れるたびに「涙が出る」とか言ってる奴らと同レベルで、
高みの見物を決め込んでもいないとそういう発言は出来ない。

「重いから見たくない」ってさあ、それを毎日見ている人たちはどうなるんだろう。
毎日淀んだ気分で生きなくちゃいけないの? そういう「かわいそうな人たち」なの?
震災直後「被災者をかわいそうと思わないで」っていう呼びかけがあった。
それはどこに行ってしまったんだろう?

「復興が進んでいない!」「政府は何をやっている!」ってテレビで怒っている人たちも一緒。
「被災地の人はかわいそうだから代わりに怒ってあげなきゃ」って思っているのかな。
とりあえず瓦礫を撤去できたり、店を再開出来たり、少しずつだけど被災地は前に向かって進んでいる。
それをテレビで「まだまだ!」って否定されている。
うつ病患者に無責任に「ガンバレ!」っていう構造と変わらない。

生きているだけで丸儲けなんだよ。
住んでいる家があれば幸せなんだよ。
店に商品が並んでいれば豊かなんだよ。
毎日お風呂に入れるのも幸せなんだよ。

「被曝者」なんて罵られないのも幸せなんだよ。


もっと基本的なところにみんな還ってほしい。
唄歌ってロウソクともして「絆が大事」と言ってるだけじゃなくて。
「現実は辛い」なんて簡単に言ってる暇はない。

学校で勉強できる幸せとか、お給料がある喜びとか、外で自由に走り回れる楽しさとか、
そういうことをたくさん発信してほしい。

辛い出来事も大事だけど、そればっかり流しても目を背けちゃう人がたくさんいるから。
楽しいことも辛いこともどっちもあって、それが人間だから。



明日は静かに過ぎてほしいものです。
やかましいプロパガンタは、断固お断りです。
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